あらためて考える SAP の2025年問題への対応

プロアクシアコンサルティングでビジネスソリューション事業部に所属しています M.K. です。

いよいよ差し迫った SAP の2025年、2027年問題を、ベーシス視点で取り上げたいと思います。
今更感のあるテーマですが、どう対応すべきか未だ決め切れていない企業や、ぼんやりとした方針で進めつつある企業に何かしら参考になれば幸いです。

これまでの経歴

2003年に SAP ベーシスの認定資格を取得し、2005年のアップグレードプロジェクトにて本格的にベーシスデビューしてから、ほぼベーシス一筋で現在に至っています。

ただ、扱っていた監視ツールが SAP の監視も可能だったことから、1998年頃より SAP のベーシス領域には関わっていました。
このような経歴のため、本ブログもそうですが、古い話題が多くなりがちです。

今回のテーマを選んだ経緯

2025年までとされていた SAP ERP6.0 の保守サポート期限が、一昨年、2027年末 (拡張保守は2030年末) まで延長されることになりました。

SAP 社のサポートを受けるためには、SAP S/4HANA への移行が必要となる訳ですが、その移行を行うのか、それ以外の対策を取るのか、その判断に2年 (拡張保守で5年) の猶予ができたことになります。

この猶予ができたことと、延長可能なバージョンに前提条件があることから、企業側での選択肢が増えてきている印象があります。
そのような昨今の状況と、このポイントを紹介したいと思います。

SAP の2025 (2027) 年問題とは

SAP の2025年問題とは、SAP ERP6.0 の保守サポート期限が2025年であり、SAP S/4HANA に移行するなどの対応が必要となる問題です。

この SAP の保守サポート期限については、経済産業省の DX レポート「2025年の崖」にも記載があり、IT 人材不足も含めた大きな問題と言えます。この人材不足により S/4HANA 移行がなかなか進んでいないということも、SAP が保守サポート期限を延長した要因のひとつと言われています。

出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf

この SAP の2025年問題は、前述の通り2020年2月に、保守サポート期限が2027年まで延長されたことから、SAP の2027年問題と言われることが多くなってきています。また、拡張保守サポートを採用すると2030年まで期限が延びることから、SAP の2030年問題とも言われます。

2027年まで延長されるのは全ての ERP6.0 ではない

2020年2月のこの SAP の発表は、移行方針を決めかねていた企業には嬉しいニュースだったと思います。しかしながら、2027年まで延長されるのは全ての SAP ERP6.0 ではなく、SAP ERP6.0 の EHP6 以上(※)である必要があります。

  • SAP ERP6.0 EHP5 以下をお使いの場合は、EHP6 以上を適用することで、2027年、拡張保守で2030年までの移行猶予が得られることになります。
  • SAP ERP6.0 EHP5 以下のまま使われる場合は、拡張保守がなく2025年末で保守サポートは終了するため、当初の通り SAP の2025年問題を抱えていると言えます。

※ ERP の EHP ではなく、SAP 基盤である NetWeaver のバージョン依存で、NetWeaver7.3EHP1 以上が前提です。NetWeaver7.3EHP1 で稼働可能な ERP が、ERP6.0 EHP6 になります。

SAP のアップグレードの歴史

このような保守サポート期限の問題は、ERP6.0 に始まったことではありません。今までも繰り返されていたことです。

経歴で書きました通り、私のベーシスデビューはアップグレードプロジェクトで、R/3 4.0B から R/3 Enterprise へのアップグレードでした。当時はハードウェア性能も低く、SAP のアップグレードツールの品質も悪く、とんでもない工数、とんでもない思いをしてアップグレードしていました。

OS やデータベースにサポート期限がある以上、その上で稼働するアプリケーションのアップグレードが必要なのは分かりますが、これだけ大規模なコストをかけ、数日の業務停止まで伴うことを定期的に実施ないといけないとは、駆け出しベーシスの身でありながら、顧客はたまったものではないなと思ったものです。

当時、最も普及していたバージョンである R/3 4.6C も保守サポート期間内ではあったものの、今後のアップグレードを見据えると、最新にすべきであろうということで R/3 Enterprise がターゲットバージョンとなりました。(※)
その R/3 4.6C が保守サポート期限を迎えるタイミングでは、今と同じように○○年問題とは言われなかったものの、ERP6.0 へのアップグレードプロジェクトが多く立ち上がっていたと思います。

下図のように、R/3 4.6C の拡張保守期間は通常の倍以上です。いかに R/3 4.6C を使用している顧客が多く、後続のリリースへの移行がなかなか進まなかったことも表していると言えます。

そんな中2006年に、アップグレードが顧客の大きな負担であることから、SAP 社が2010年までアップグレードをしないと宣言しました。新しい EHP はリリースされますが、保守サポート期限に変化はなく、確かにアップグレードは不要でした。
下図の通り、ERP6.0 の保守サポート期間は際立って長いものになっています。

〈主要な製品のリリース時期とサポート期間〉

前述の2027年まで保守サポートが延長される EHP6 が、「アップグレードをしない」とした2010年の翌年にリリースされているのは興味深いことです。
EHP 適用ではありますが、SAP 基盤としてはアップグレードされたバージョンと言えるかと思います。

※ R/3 Enterpriseは「mySAP.com」と呼ばれる、Web アプリケーションサーバ (WAS と呼ばれていました) を兼ね備えた SAP 基盤になっていました。当時、mySAP.com にアップグレードしないと、今後のリリースには直接アップグレードできないとも言われていましたが、現在では R/3 4.6C から ERP6.0 へはサポートされるアップグレードパスとなっています。

顧客の選択肢

少々脱線しましたが、SAP ERP6.0 を利用している顧客での選択肢は以下の通りです。

  1. S/4HANA に移行する
  2. 拡張保守含め最大2030年までは ERP6.0 のまま使用し、移行方針検討の時間を確保する
  3. 顧客個別保守(保守サポート期限を過ぎた製品を顧客個別にサポートする SAP の保守)を利用し、半永久的に ERP6.0 のまま使用する
  4. 第三者保守を利用し、今のまま使用する
  5. 基幹システムを SAP 以外のものに移行する

SAP のパートナーとして仕事をしていることもあり、「5」は今のところ話すら聞いたことがありません。「3」については、制約が多い(法改正対応がない、等)ことや、保守費用の上乗せ額が多いことから「4」に切り替えることもあり、稀に遭遇します。ただ、私が携わった案件として「1」と「2」についてがほとんどで、概ね半々の印象です。保守サポート延長の発表があり、「1」だった方針を「2」に変更された事例もあります。

また、保守サポート延長の前提条件である EHP6 以上を適用する案件もよく見かけるようになりましたが、これには SAP の保守サポート期限以外の要因もあるように思います。

ハードウェア、OS、データベースそれぞれに保守サポート期限がありますので、それらをリプレースするタイミングが、どうしてもやってきます。それに合わせて S/4HANA に移行したいが、その準備が進んでいないとか踏ん切りがつかない顧客にとっては、この ERP6.0 の保守サポート延長は魅力的です。

EHP5 以下をお使いの場合は、リプレースに合わせて EHP 適用で延命し、2030年までに移行方針を決めるとするのは悪くない判断に思います。

多くの顧客での選択肢である「1」「2」について、それぞれの現時点でのメリット、デメリットに触れていきます。

1. S/4HANA に移行する

当然ながら2030年以降も保守サポートを受けられるというメリットがあります。
データベースが SAP 社のデータベースであり、インメモリデータベースである SAP HANA になることでのパフォーマンス面でのメリットもあります。
また最近 SAP が力を入れているクラウド(S/4HANA Cloudなど)への移行も可能です。

充分な準備期間が取れているケースでは、特にデメリットはない訳ですが、強いて挙げると昨年9月に発表されたようなリリース方針が変わったりすることでしょうか。
https://news.sap.com/2022/09/new-sap-s4hana-release-maintenance-strategy/

毎年新しいバージョンをリリースすることになっていましたが、S/4HANA 2023 からは2年周期になり、且つ標準保守サポート期間が5年から7年に変更になりました。
現時点では、S/4HANA 2023 以降をターゲットとするのが良いということになります。

2. 拡張保守含め最大2030年までは ERP6.0 のまま使用し、移行方針検討の時間を確保する

最大のメリットは SAP 社のサポートを受けつつ、現行のまま最大で2030年まで運用可能という点です。

S/4HANA の場合、テーブル構造が変わったり (FAGLFLEXA が廃止される、BSAD が CDS ビュー化するなど) 、プール/クラスターテーブルがなくなったり (RFBLG など) するため、それらを使用するアドオンプログラムは改修が必要となります。
そういった業務影響調査のアセスメントを行う充分な時間が確保できるのもメリットです。

また、前段の S/4HANA 移行のデメリットとして記載した、SAP の方針変更なども2030年まで様子見できるのもメリットに感じます。

古くからベーシスをしていますと、この SAP の方針変更というのは曲者で、2009年より導入が必須となった SAP Solution Manager(※) は ERP6.0 と同様に2027年にサポートは終了し、それ以降は SAP Cloud ALM という SaaS になります。
また、償却資産税レポート出力で必須であった Adobe Document Service(ADS) も SAP Cloud Platform Forms by Adobe という SaaS 利用の選択肢が出てきています。

2030年まであと7年もありますので、方針変更はもとより、移行ツールの改善など技術的な移行時のパフォーマンス向上なども期待できるかもしれません。
デメリットは、新しい機能が提供されないことや、今後リリースされる OS、データベースに制約なく対応してくれるのか、などがあります。

※ 正確には、2009年より新規顧客対象に提供開始した「SAP Enterprise Support」が、Solution Manager の導入を前提とした保守サポートだったためです。

まとめ:SAPの2027年問題に関する個人的な見解

SAP パートナーに身を置く立場として「3」「4」「5」は到底お勧めできませんが、「1」「2」については、ベーシス視点ではあまり大差がありません。

数年前であれば S/4HANA 移行は手探りな面も多かったと思いますが、推し進めたい SAP 側の意向もあってかドキュメント類も充実しており、また移行で使用するツールも旧来のアップグレードやマイグレーションと変わりなく扱いやすいものになっています。

「1」の場合は、リリース方針変更後である S/4HANA 2023 をターゲットとすることで、2030年までの保守サポートを得るのが得策に思います。
現時点でのサポート対象の OS とデータベースの保守サポート期限は以下の通りです。

業務要件が最優先であることは勿論ですが、今後サポート対象となる OS やデータベースのサポート期限にも着目し、S/4HANA 移行のタイミングを検討されるのが良いかと思います。

「2」の場合は、SAP の動向を注視し、充分な準備を整えるということに尽きますが、EHP6 以上を適用する必要がある場合は注意が必要です。

  1. EHP 適用でのアプリ側の影響はそれなりに大きいため、S/4HANA 移行ほどではないが規模の大きなプロジェクトになりかねない
  2. 現行での SP レベルが低い場合は、ダウンタイムも長時間化する

また、将来的に S/4HANA 移行を見据えている場合、ユニコード化が必須となるため、2030年までにハードウェア、OS、データベースリプレース時や EHP 適用時などのタイミングで事前にユニコード化し、S/4HANA 移行時のダウンタイム削減も検討すべきに思います。

たった2年延長されたように見えますが、元々拡張保守がなかったため、それを含めると5年の延長と言えます。5年の猶予というのは大きいと思います。
S/4HANA 移行を既に実施された企業も増えていますので、ベンダー各社にもノウハウが溜まってきている中での5年は大きいのではないでしょうか。そういう意味でも、今すぐ S/4HANA 移行するよりは、この5年をうまく活用するのがベターには感じています。

唯一懸念に思うのが「SAP の2025年問題」ではなく冒頭にも記載した「2025年の崖」にも記載のある IT 人材不足です。今現在でも痛感する人材不足。経済産業省の資料によれば、ここ数年で崖を転がり落ちるように2025年には43万人不足するとあります。

まだ様子見するのが得策のように書いてきましたが、この点に限っていえば、なんとか要員確保できる今のうちにS/4HANA移行すべきとも言えます。基幹システムの大規模な移行に対応できる人材が、社内で確保できるかどうかというのは、今後の重要なポイントになってくるのは間違いありません。