Adobe LiveCycle Designer × ADS / Forms Service で独自フォーマット帳票を実現
はじめに
業務システムにおいて、帳票は欠かせない要素です。請求書・納品書・出荷指示書など、日々の業務で使われる帳票は多岐にわたり、企業ごとにフォーマット要件は大きく異なります。
SAP S/4HANA Public Cloud(正式名称:SAP S/4HANA Cloud, Public Edition)では、On-Premise や Private Edition と異なり 従来型の ABAP カスタマイズ(標準コードの修正やカスタムプログラムの直接追加)が原則として制限されています。「これまで通り自社専用フォーマットの帳票を発行できるのか?」は、Public Cloud への移行をご検討中の企業様からよくいただくご相談の1つです。
結論から言えば、SAP S/4HANA Public Cloud でも自社専用フォーマットの帳票開発はローコード中心で実現できます。Adobe LiveCycle Designer によるテンプレート設計と、SAP の帳票レンダリング基盤を組み合わせることで、自社専用フォーマットの帳票を Public Cloud 内から、あるいは外部システムから API 経由でも出力できます。本記事では、SAP S/4HANA Public Cloud における帳票開発の全体像と、2つの出力方法の使い分けをご紹介します。
SAP S/4HANA Public Cloud の帳票開発とは
SAP S/4HANA Public Cloud の帳票開発では、Adobe LiveCycle Designer を使って帳票テンプレート(XDP ファイル)を作成します。XDP は Adobe が定めた帳票テンプレートのフォーマットで、レイアウト・データバインディング・スクリプトを1つのファイルにまとめて管理できる点が特徴です。
Adobe LiveCycle Designer は Adobe 社の帳票デザインツールで、SAP 向けには「Adobe LiveCycle Designer for SAP Solutions」というバンドル版が提供されています。SAP の印刷フォーム作成用途であれば、Adobe ライセンスを別途取得することなく利用できます。なお、PDF 上に入力項目を持つインタラクティブフォームとして運用する場合は、別途 Adobe の Reader Rights ライセンスが必要となるケースがあります。
このツールを使うことで、レイアウトや項目配置を自由に設計したフルカスタムの帳票テンプレートを作成できます。レイアウト上に項目枠を配置し、各枠に差し込むデータを指定していくのが基本的な開発の流れです。スクリプトを記述すれば、より複雑な処理にも対応できます。

デザイン時のイメージ
Adobe LiveCycle Designer で XDP テンプレートを設計
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完成イメージ
業務データを差し込んで生成された PDF 帳票
帳票出力の2つの方法
作成した帳票テンプレートは、大きく分けて 2つの経路で PDF 出力できます。①は SAP S/4HANA Public Cloud の業務トランザクションに組み込まれた経路、②は SAP BTP 上の API を介して外部システムから呼び出す経路です。どちらも最終的なレンダリング処理は ADS が担っており、業務要件に応じて使い分けます。
方法①:SAP 標準フォームのカスタマイズ
SAP S/4HANA Public Cloud には、受注伝票・請求書・出荷指示書といった主要な業務トランザクションに対し、あらかじめ 標準の印刷フォーム(XDP テンプレート) が用意されています。方法①は、この標準フォームを 自社レイアウトに合わせてカスタマイズするアプローチです。Adobe LiveCycle Designer で項目配置や見た目を編集し、SAP のフォーム管理機能を通じて差し替えます。
カスタマイズしたフォームは、SAP 標準の Output Management(出力管理) の仕組みを通じて利用されます。ユーザーがトランザクション画面から印刷・プレビュー・メール送信などを実行した際に、ADS(Adobe Document Services — Adobe が提供する帳票レンダリングサービスで、SAP の製品にバンドルされて利用されます)が裏側で XDP テンプレートに業務データを差し込み、PDF を生成します。

SAP S/4HANA Public Cloud 上の業務データをそのまま帳票に反映できるため、転記漏れや手作業による入力ミスを防げます。導入を比較的軽量に進められる一方、SAP 標準の出力フローに沿った利用が前提となるため、帳票に渡せるデータは業務トランザクションが扱う範囲に限られ、独自のタイミングで PDF を自動生成するといった拡張は難しいという制約があります。
方法②:外部アプリからの API 連携による帳票出力
SAP BTP(Business Technology Platform — SAP のクラウド統合・拡張基盤)上の SAP Forms Service by Adobe は、PDF 帳票を生成するクラウド API サービスです。SAP S/4HANA Public Cloud の外部にあるシステムやアプリケーションから、REST API 経由で呼び出して帳票を出力できます。
XDP テンプレートは あらかじめ Forms Service by Adobe にアップロード(登録)しておく ことが前提です。実行時には、登録済みのテンプレートを指定して、必要なデータだけを API で送信します。具体的な流れは次の3ステップです。
- 外部アプリから SAP S/4HANA Public Cloud の公開 API を呼び出し、業務データを取得
- 取得したデータを基に 外部アプリ側で XML データを生成
- Forms Service by Adobe の API に XML データを送信し、登録済み XDP テンプレートに差し込んで PDF をレンダリング

この方法では SAP S/4HANA Public Cloud のデータに加え、外部システムや手入力のデータも XML に含められるため、複数の業務システムを横断したデータを1枚の帳票にまとめるといった柔軟な要件にも対応できます。
方法①と②の使い分け

「日々の業務に帳票出力を組み込みたい」なら①、「複数のデータソースを束ねたい/外部アプリから帳票を発行したい」なら②が選択の目安となります。両者は排他ではなく、業務シーンに応じた併用も可能です。
方法②の実現例:ローコード開発ツールとの連携
方法②は、外部アプリ側で SAP API 呼び出し・XML 生成・Forms Service API 呼び出しといった処理を実装する必要があります。とはいえ、企業システム開発で採用が進む ローコード開発ツール と組み合わせれば、フルスクラッチ開発をせずに帳票出力アプリを構築できます。ここでは代表的な2つの例として、SAP Build Apps(SAP BTP 上のローコード開発ツール)と、Microsoft Power Apps(Microsoft Power Platform のローコード開発ツール)をご紹介します。
例①:SAP Build Apps を活用した実装
※ SAP Build Apps の現状について SAP Build Apps は、2026 年 3 月 23 日付で SAP より Standalone Product としての提供終了がアナウンスされました。既存契約者は契約期間中、引き続き利用可能です。新規プロジェクトについては、SAPUI5 / SAP Fiori、SAP Build Code、Microsoft Power Platform などの代替手段の検討をお勧めします。
SAP Build Apps は、SAP BTP 上で動作するローコード開発プラットフォームです。ビジュアル操作中心で Web アプリやモバイルアプリを開発でき、SAP S/4HANA Public Cloud との API 連携や、SAP BTP 上の各種サービスとの連携が標準でサポートされています。
実装の基本構成は次のとおりです。
- SAP Build Apps で帳票出力をトリガーするユーザーインターフェイス(モバイル・タブレット・PC ブラウザに対応)を構築
- SAP Build Apps の データ連携機能 を用いて、SAP S/4HANA Public Cloud の API から業務データを取得し、XML データを組み立て
- 組み立てた XML を SAP Forms Service by Adobe の API に送信し、事前登録済みの XDP テンプレートに差し込んで PDF を生成

たとえば、営業担当者が外出先のタブレットから自社専用フォーマットの見積書をその場で発行する、現場担当者がモバイル端末から作業報告書を即時に生成・配信する、といった業務フローが構築できます。SAP BTP 上に閉じて構成できるため、SAP S/4HANA Public Cloud との API 連携や認証周りをスムーズに組み立てられます。SAP を中心とした業務アプリ開発に適した構成といえます。
例②:Microsoft Power Platform を活用した実装
Microsoft Power Platform は、Microsoft 365 環境と統合されたローコード開発プラットフォームで、業務アプリ用の Power Apps やワークフロー基盤の Power Automate などのサービスを含みます。SAP を業務システムとして利用している企業の中には、社内ポータルや業務アプリの開発基盤として Power Platform を採用しているケースも多く、SAP と Microsoft の双方を活用する文脈で、帳票出力を Power Platform 側から行いたい、というニーズが増えています。
実装の基本構成は次のとおりです。
- Power Apps で帳票出力をトリガーするユーザーインターフェイスを構築
- Power Automate(Power Platform のワークフロー基盤)で、SAP S/4HANA Public Cloud の API を呼び出して業務データを取得し、XML データを組み立て
- 組み立てた XML を SAP Forms Service by Adobe の API に送信し、事前登録済みの XDP テンプレートに差し込んで PDF を生成

これにより、たとえば Microsoft 365 上で運用されている社内ポータルから「請求書を出力する」ボタンを押すだけで、SAP 上の業務データに基づいたカスタム帳票を生成・配布する、といった業務フローが構築できます。SAP と Microsoft Power Platform の双方を活用している企業にとって、日常的に使い慣れた Microsoft 365 環境の中で帳票出力までを完結できる点が大きなメリットです。
まとめ
SAP S/4HANA Public Cloud の帳票開発では、従来型の ABAP カスタマイズが制限される環境下でも、Adobe LiveCycle Designer と ADS / SAP Forms Service by Adobe の組み合わせにより、自社専用フォーマットの帳票開発をローコード中心で実現できます。
方法①:SAP 標準フォームのカスタマイズ
- 利用サービス:SAP 標準の Output Management + ADS
- 代表ユースケース:受注伝票・請求書・出荷指示書など、SAP 標準トランザクションの出力帳票を自社レイアウトに変更
方法②:外部アプリからの API 連携による帳票出力
- 利用サービス:SAP Forms Service by Adobe(BTP)
- 代表ユースケース:SAP Build Apps や Microsoft Power Apps などのローコードアプリ、外部基幹システムからの帳票発行、複数データソースを横断した帳票
プロアクシアコンサルティングではこれまで多数の SAP 導入・帳票開発プロジェクトを支援してまいりました。SAP S/4HANA Public Cloud の帳票開発についても、以下のようなご相談に対応しております。
- 帳票要件のヒアリング・現行帳票の電子化/フォーマット刷新の検討
- ADS と Forms Service の選定支援:現行業務フローを踏まえ、どちらの方式が自社運用に合うかをご提案します
- ローコード開発ツール(SAP Build Apps / Microsoft Power Apps など)を用いた帳票連携の PoC から本番開発まで
- 既存の On-Premise / Private Edition 帳票資産から Public Cloud への移行支援
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