Build Process Automation を中心に、申請から承認・SAP データ操作まで一貫構築
はじめに
業務システムにおいて、申請・承認のワークフローは欠かせない要素です。経費精算・休暇申請・購買発注・契約稟議など、企業の業務には大小さまざまな承認プロセスが存在し、業務特性に応じて承認ルートや判断基準は大きく異なります。
SAP S/4HANA Public Cloud(正式名称:SAP S/4HANA Cloud, Public Edition)では、On-Premise や Private Edition と異なり 従来型の ABAP カスタマイズ(標準コードの修正やカスタムプログラムの直接追加)が原則として制限されています。「これまで ABAP で実装してきた自社独自の承認ワークフローを Public Cloud でも継承できるのか、業務に合わせた新しい承認プロセスを Public Cloud 上で新規に構築できるのか」というご相談を、移行を検討中の企業様からよくいただきます。
結論から言えば、SAP BTP 上の Build Process Automation(BPA) を活用すれば、業務固有のカスタムワークフローをエンドツーエンドで構築できます。BPA は 申請画面・承認ルート・状態管理を1つのツール内でローコードで設計でき、必要に応じて SAP データ操作や外部システム連携、より表現力の高い申請画面とも組み合わせられる、柔軟なワークフロー開発基盤です。本記事では、その全体像と申請画面の実装パターンをご紹介します。
SAP のカスタムワークフロー開発とは
SAP のカスタムワークフロー開発は、次の 4つの構成要素で組み立てます。
- 申請画面:ユーザーが申請を起こすための UI
- ワークフローエンジン:申請を受け取り、承認ルートや条件分岐を制御する基盤
- 承認受信ボックス:承認者が承認・否認・差戻しなどの操作を行う UI
- 承認後アクション:承認結果に基づき、SAP データを操作したり、外部システムと連携したりする処理
中心となるのは SAP BTP 上の Build Process Automation(BPA) です。BPA は SAP の標準ワークフロー基盤で、承認ルート・条件分岐・状態遷移をビジュアル操作中心で設計できます。

構成要素ごとに見る
① 申請画面
申請画面は、ユーザーが申請を起こすための入り口です。BPA には標準で申請フォーム作成機能が組み込まれており、申請画面は BPA 単独で構築できます。テキスト・数値・日付・選択リストといった申請フォームの基本フィールドは BPA の標準機能で対応可能で、シンプルな申請業務であれば、外部の UI ツールを使わずに、BPA だけでワークフロー全体を完結できるのが大きな特長です。さらに、SAP Document Management Service(DMS) や CMIS 対応のドキュメントリポジトリと組み合わせれば、見積書や領収書などのファイル添付を伴う申請業務にも対応できます。
一方、より高度な UI 表現(カスタムレイアウト、リッチなコンポーネント、ブランドガイドラインに沿ったデザインなど)や、既存の業務環境との統合(社内ポータル、Microsoft 365、モバイルネイティブアプリ配信など)が求められる場合は、外部のローコード開発ツールと組み合わせて申請画面を構築するアプローチを採用します。代表的なローコードツールは次の2つで、企業の既存環境に合わせて選択できます。
- SAP Build Apps(SAP BTP 上のローコード開発ツール)
- Microsoft Power Apps(Microsoft Power Platform のローコード開発ツール)
両者とも BPA と API 経由で連携でき、具体的な実装例は本記事後半でご紹介します。
② ワークフローエンジン:Build Process Automation
Build Process Automation(BPA) は、SAP BTP 上で提供されるローコードのワークフロー基盤です。承認プロセスのフロー、承認ルート、条件分岐、状態管理などを、ビジュアル操作中心で設計できます。
BPA は以下の役割を担います。
- 申請データの受領と検証
- 承認ルートの定義(直列・並列・条件分岐)
- 各タスクの作成・割当(個人/ロール/組織単位)
- 状態管理(申請中/承認済み/否認 等)
- 承認後アクションの起動
ローコードで設計するため、業務部門と IT 部門が共通の理解のもとでワークフローを組み立てられる点も大きなメリットです。
③ 承認受信ボックス
承認者は、BPA が作成したタスクを 受信ボックス で確認・処理します。受信ボックスはワークフローのタスク管理 UI で、ブラウザやモバイル端末から利用できます。
SAP 標準の受信ボックスと統合可能:SAP Fiori 標準の My Inbox、または SAP の統合タスク管理基盤 SAP Task Center と統合することで、承認者は 1つの受信ボックス画面ですべての承認タスクを処理できます。SAP S/4HANA Public Cloud の標準ワークフローと自社カスタムワークフローのタスクを統合表示できるため、承認者の業務負担を最小化できます。

承認・否認に加え、業務に応じた独自コマンドを実装可能:差戻し・追加情報要求・保留・エスカレーションなど、業務固有の承認アクションを BPA で設計できます。承認フォーム上の追加フィールド(チェックボックスや選択リスト)と承認後の条件分岐・サブプロセスを組み合わせることで、業務実態に即した柔軟な承認プロセスを実現できます。

BPA での設計時イメージ
申請判定ステップから「差し戻し」「承認」「拒否」の3分岐をビジュアル設計
↓

承認者の受信ボックスイメージ
判定フォームに「承認」「却下」「差戻」の3つのアクションボタンが並ぶ
たとえば上図のように、申請者がフォームから経費精算を申請すると、承認者の受信ボックスに判定フォームが届き、業務内容に応じて「承認」「却下」「差戻」のいずれかを選択できます。差戻しを選択した場合は申請者に再入力フォームが戻り、修正後に再び判定ステップへ進む、といった業務実態に即したフローを BPA 上で完全にビジュアル設計できます。
④ 承認後のアクション
承認が完了した後、BPA から SAP データ操作や外部システム連携を起動できます。
- SAP API 経由のデータ操作:受注作成、マスタ更新、トランザクション登録など、承認結果に応じて SAP S/4HANA Public Cloud の API を呼び出し、業務データを更新
- 外部システム連携:承認結果を、メール送信・Microsoft Teams 通知・別業務システムへの連動など、外部システムに反映
申請画面の実装例:BPA と外部ローコードツールの組み合わせ
前述のとおり、シンプルな申請フォームであれば BPA 単独で構築できますが、より表現力の高い UI や 既存業務環境との統合が求められる場合は、BPA を外部のローコード開発ツールと組み合わせて申請画面を構築します。ここでは代表的な2つの例として、SAP Build Apps(SAP BTP 上のローコード開発ツール)と、Microsoft Power Apps(Microsoft Power Platform のローコード開発ツール)をご紹介します。
例①:SAP Build Apps を活用した実装
※ SAP Build Apps の現状について SAP Build Apps は、2026 年 3 月 23 日付で SAP より Standalone Product としての提供終了がアナウンスされました。既存契約者は契約期間中、引き続き利用可能です。新規プロジェクトについては、SAPUI5 / SAP Fiori、SAP Build Code、Microsoft Power Platform などの代替手段の検討をお勧めします。
SAP Build Apps は、SAP BTP 上で動作するローコード開発プラットフォームです。ビジュアル操作中心で Web アプリやモバイルアプリを開発でき、BPA や SAP S/4HANA Public Cloud との API 連携が標準でサポートされています。
実装の基本構成は次のとおりです。
- SAP Build Apps で申請フォーム(入力フィールド、添付ファイル、送信ボタン)を構築
- 申請ボタンが押されたら、BPA の API を呼び出してワークフローを起動
- 承認者は 受信ボックス でタスクを処理し、BPA が承認後のアクションを実行

たとえば、営業担当者が外出先のタブレットから経費精算を申請する、現場担当者がモバイル端末から購買申請を出す、といった業務フローを構築できます。SAP BTP 上に閉じて構成できるため、BPA・SAP S/4HANA との API 連携や認証周りをスムーズに組み立てられます。SAP を中心とした業務アプリ開発に適した構成といえます。
例②:Microsoft Power Platform を活用した実装
Microsoft Power Platform は、Microsoft 365 環境と統合されたローコード開発プラットフォームで、業務アプリ用の Power Apps やワークフロー基盤の Power Automate などのサービスを含みます。SAP を業務システムとして利用している企業の中には、社内ポータルや業務アプリの開発基盤として Power Platform を採用しているケースも多く、Microsoft 365 ユーザー向けの申請画面を Power Platform で実装するニーズが増えています。
実装の基本構成は次のとおりです。
- Power Apps で申請フォームを構築
- Power Automate(Power Platform のワークフロー基盤)で、BPA の API を呼び出してワークフローを起動
- 承認者は受信ボックスで処理(Microsoft Teams への通知連携も可能)

これにより、たとえば Microsoft 365 上で運用されている社内ポータルから「申請する」ボタンを押すと、SAP BTP 上の BPA が承認フローを管理し、承認後に SAP データに反映される、という業務フローが構築できます。SAP と Microsoft Power Platform の双方を活用している企業にとって、日常的に使い慣れた Microsoft 365 環境の中で申請 UI を完結できる点が大きなメリットです。
まとめ
SAP のカスタムワークフロー開発は、SAP BTP 上の Build Process Automation(BPA) を中心に、申請画面・承認受信ボックス・SAP データ操作を組み合わせることで、業務固有の独自プロセスをエンドツーエンドで実装できます。
4つの構成要素
- 申請画面:BPA 標準のフォーム機能で構築、必要に応じて SAP Build Apps / Microsoft Power Apps などのローコードツールと組み合わせて表現力を拡張
- ワークフローエンジン:SAP BTP 上の Build Process Automation(BPA)
- 承認受信ボックス:SAP 標準受信ボックス(My Inbox / Task Center)との統合、業務に応じた独自コマンド(差戻し・保留など)の実装に対応
- 承認後アクション:SAP API でのデータ操作と外部システム連携
プロアクシアコンサルティングではこれまで多数の SAP 導入・ワークフロー開発プロジェクトを支援してまいりました。SAP のカスタムワークフロー開発についても、以下のようなご相談に対応しております。
- 業務ワークフロー要件のヒアリング・現行フローの可視化/再設計の検討
- Build Process Automation を用いたワークフロー設計・実装支援
- 承認受信ボックスの SAP 標準統合(My Inbox / Task Center)・業務固有の承認コマンド(差戻し・保留など)の設計
- ローコード開発ツール(SAP Build Apps / Microsoft Power Apps など)を用いた申請画面の PoC から本番開発まで
- 承認後の SAP API 連携・外部システム連携の設計・実装
SAP S/4HANA Public Cloud の導入・周辺開発をご検討の方は、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ
